後宮意匠帖こうきゅういしょうちょう

位と衣装

同じ後宮でも、皇后・妃・嬪と貴人・常在・答応では、住まいの殿・部屋の格・冠服が違います。位を選ぶと、住まい・部屋の格・冠服と、その位の建物と調度が見られます。表は清の位で、明と唐の位は各ページで対照します。

位の早見表(清)

定員・宮女の数は『国朝宮史』、年例銀は同じ本の経費の巻、朝袍の色と朝冠は『皇朝礼器図式』(1759)による値です。「推定」「要確認」は確かめている最中の値です。
位定員住まい朝袍の色朝冠(冬)の目印宮女年例銀(両)
皇太后1慈寧宮・寿康宮・寧寿宮明黄皇后と同じ12—
皇后1「中宮」(ふだんの住まいは要確認)明黄頂 3 層・金鳳 7・後ろの真珠の垂れ 5 行101,000
皇貴妃1東西十二宮の 1 宮の主(正殿)明黄頂 3 層・金鳳 7・垂れ 3 行8800
貴妃2東西十二宮の 1 宮の主(正殿)金黄皇貴妃と同じ。縧が金黄8600
妃4東西十二宮の 1 宮の主(正殿)金黄頂 2 層・金鳳 5・垂れ 3 行6300
嬪6東西十二宮の 1 宮の主(正殿)香色(要確認)頂 2 層・金翟 5・垂れ 3 行6200
貴人定めない主の宮の配殿など(推定)図式に無い図式に無い4100
常在定めない主の宮の配殿など(推定)図式に無い図式に無い350
答応定めない主の宮の配殿など(推定)図式に無い図式に無い2(則例は 1)30
宮女—宮の囲房・後罩房(推定)————
宦官—宮の門の脇の値房(勤め。住まいは宮の外)————

時代 × 位の描き分け

唐・宋・明・清の后妃と宮女が、儀式とふだんに何を着たかの早見表です。清の朝服・吉服は『皇朝礼器図式』(1759)、明は『明史』輿服志、宋は后の像で確かめた値で、「推定」の行は確かめている最中です。線画では色が出ないので、冠の鳥と垂れの本数、龍褂の団など、形で描き分けられる所を先に書いています。
位と場面髪・冠上衣下衣靴色
唐
后妃推定高髻に簪と花、額や頬に花鈿短い襦・半臂、肩から披帛胸高に締めた長い裙先の反った履赤・緑・黄など鮮やか
宮女推定幞頭(男装)か低い髻丸首の袍に帯(男装)袴長靴地味
宋
皇后(儀式)龍鳳花釵冠・左右の博鬢・真珠の面花深青の褘衣(翟の模様)、紅の縁裙先の反った舄深青
侍女高い花冠男物の丸首の袍・長い帯—靴濃い地に小紋
ふだんの女性推定低い髻・小さな冠褙子・抹胸細い襞の裙平底淡い
明
皇后(儀式)九龍四鳳冠・左右の博鬢 3深青の翟衣 12 等裙・蔽膝青の舄深青・紅の縁
皇后(常服)龍鳳冠黄の大衫・深青の霞帔(龍)・紅の鞠衣紅の裙青の舄黄・深青・紅
妃・嬪(常服)鸞鳳冠/九翟冠大衫・霞帔(雲霞と鳳。龍は使わない)裙—黄は使わない
后妃(ふだん)推定鬏髻と頭面(挑心・分心・掩鬢)襖(明後期は立襟)馬面裙平底自由
宮人(宮女)花を飾った烏紗帽紫の丸首・細い袖・小さな葵の花紅の裙鞋紫・紅
清前期
后妃(ふだん)推定小両把頭・簪丸首・右前の袍(馬蹄袖は儀式だけ)袍の下にズボン低めの花盆底・平底位の色は儀式。ふだんは自由
清中期
皇后(儀式)朝冠(頂 3 層・金鳳 7・垂れ 5 行)・金約・耳飾り 3 対石青の朝褂+明黄の朝袍(披領・馬蹄袖)・朝珠 3 連朝裙花盆底明黄・石青
皇貴妃・貴妃(儀式)朝冠(頂 3 層・金鳳 7・垂れ 3 行)石青の朝褂+朝袍(皇貴妃は明黄、貴妃は金黄)朝裙花盆底明黄/金黄・石青
妃(儀式)朝冠(頂 2 層・金鳳 5・垂れ 3 行)石青の朝褂+金黄の朝袍朝裙花盆底金黄・石青
嬪(儀式)朝冠(頂 2 層・金翟 5・垂れ 3 行)石青の朝褂+香色の朝袍朝裙花盆底香色(要確認)・石青
后妃(祝いの日)吉服冠か鈿子石青の龍褂(金龍の団 8。嬪は団なし)+位の色の龍袍・朝珠 1 連—花盆底位の色
后妃(ふだん)推定両把頭・扁方・燕尾氅衣・襯衣・坎肩—花盆底自由(明黄を避ける)
貴人・常在・答応推定両把頭(簪は少なめ)襯衣・氅衣(縁飾りは控えめ)—花盆底・平底図式に無い
清後期
后妃(ふだん)推定大拉翅・正面の大きな花・片側の流蘇縁飾りの幅の広い氅衣—高い花盆底自由
清
宮女推定長い 1 本の三つ編み地味な袍・坎肩—平底地味
太監(宦官)推定帽子(位で頂戴)袍・褂—長靴地味

漢と元は資料が少ないので、時代のページで解説しています。服ごとの形は、種類の「衣装と装身具」で見られます。

取り違えやすい所

漫画でよく見る、位と衣装の取り違えです。
朝冠はふだん被らない
朝冠・朝褂・朝珠 3 連は即位・大婚・元旦などの儀式の服。後宮の日常の場面は、両把頭か大拉翅に便服(氅衣・襯衣)。
後ろの垂れの本数で位が分かる
清の朝冠の後ろの真珠の垂れは、皇后が 5 行、皇貴妃から嬪までが 3 行。頂は皇后〜貴妃が 3 層、妃・嬪が 2 層。嬪の冠の鳥は鳳でなく翟。
同じ黄でも色の名が違う
明黄は皇帝・皇太后・皇后・皇貴妃、金黄は貴妃・妃、香色は嬪。線画では色が出ないので、トーンの指定と注で描き分ける。
大拉翅は清後期だけ
黒い扇形の大きな被り物(大拉翅)は同治・光緒のころの形。乾隆の後宮は両把頭、清前期は低い小両把頭。
旗袍は清の后妃の服ではない
体に沿う一つながりの旗袍は民国(1920 年代後半から)の服。清の后妃の便服は、直線裁ちのゆったりした氅衣・襯衣。
明と清の冠服を混ぜない
明の后妃は鳳冠・大衫・霞帔・馬面裙。清は満洲の形の朝冠・馬蹄袖・花盆底。明の皇后の霞帔は深い青で、紅ではない。
唐の貴妃と清の貴妃は別の制度
唐の貴妃は四夫人(正一品)の 1 つ、清の貴妃は皇貴妃の下で定員 2。唐の高髻・披帛を清の後宮に持ち込まない。
花盆底は纏足の代わりではない
清の宮廷の満洲の女性は纏足をしなかった。花盆底は底の中央に台を付けた靴で、宮女は平底を履く。
位の低い主は宝座の部屋に住まない
嬪以上が 1 宮の主として正殿に住み、明間に宝座を置く。貴人・常在・答応は主の宮の配殿などに住み、部屋は炕と箱が中心(推定)。
皇后の住まいを坤寧宮と決めない(清)
坤寧宮は明の皇后の寝宮で、清は 1655 年に満洲式に改めて祭祀と大婚に使った。清の皇后のふだんの住まいは確かめている最中。